何者にもなれなかったということが
彼女を形づくっているのだろう
愛に飢えていったわけでなし
感ずる力を持てなくて
過ごした地は
都会の隅の
川まで少し
小部屋の中で
静かに終えたのか
人生そのもののように
息は苦しかったのか
知る者のないことが
彼女を些か惨めに
神秘にする
何者にもなれなかった
彼女のことが
薄い棘のように残るのは
なぜでしょう
多くの人は知らぬけれど
口ずさんだその歌が
書き留めた言葉たちが
残りじわり拡がる
彼女の人生とは
そういった類のものだったのでしょう