海を好きだと言う人は
大抵 本物を知らないわ
年端ゆかぬ頃から側に
潮香を置いた者だけが
至れる悦よ
渡せないわ
セーラー裾を砂に汚し
愛の言葉は憶えがなく
2人宿った岩陰に
見ていた海が
それだけが
確かなものであったのよ
2人留めた海だけが
そうね
幾年過ぎたとて
思い上がったままでいましょう
海に思いを馳せるのは
潮風受けたその記憶を
そしてそれだけに留まらず
苦しい思いも鮮明に
持ってしまう者だけの
特権よ 渡せないわ
Oh Mother
母なる海という
大きなものに例えられ
されどこの身に浮かぶ時
もう身の内に沈むほど
海は棲むのよ
私の中に
思い上がった者で結構
海を見たいと言う人は
ドラマの見過ぎよ
夢の見過ぎよ
柔い悦び 昏い熱
知らないでしょう
渡せないわ
母なる海よ
身の内に
そして私は海の中に
こんな思いは誰彼と
渡せないわ
一生、
思い上がったままでいましょう