天才は安いパイプ椅子に座り
ひどく項垂れていた
なにをそんなに苦しむことが
あなたの身にはないでしょう
部屋から出てすぐに駆けて
コーヒーの1本でも差し出すものだろうか
抱きしめるにはこの身が小さすぎて
雨音が強まってゆく
心地よさを越えたらもう
この世がこの世であるかの
瀬戸際だ
あぁもしかしたら
この背中はそんなことを
考えているのかしら
彼には人に見えないものが
見えると言っていた気がしてね
立ち上がったと思ったら
窓辺にまた凭れるでしょう
大きな体を支えることと
小さな体に押し込むことは
この世にある苦しみの分量からして
どう思えばいいのかしら
雨音はまだ強まってゆく
胸騒ぎを越えたらもう
この世で見えない範囲での
決壊を起こすのでしょう
あぁもしかしたら
彼の目は初めから
それを知っていたのかもしれない
また打ち流れ
天の便りと
見目良く呼ぶには苦しいことを
天才は負っているのかしら
雨音はやむときが来て
それを綺麗に歌う人こそあれ
耐える時
予見する時
胸を裂くこと
誰が知るかしら
天才は部屋にじっとして
得意の歌も儘ならぬほど
賦に耐えているのかしら