もう戻れないと
立ち尽くしていた夏の日
鮮明に思い出しています
そしてあの日さえも
戻れぬ遠い時だと知るのです
遣りきれぬものですね
届かぬと知りながら
手紙を書くような
朝も早から蝉の声
3年経ても慣れぬ商店街を
余所者足で過るのです
花屋の前では盆用の
憶えた匂いがツンと来る
あぁこれが例の
記憶と嗅覚は云々の話かと
電車に20、30分乗れば
これまた馴染まぬ大都会で
けれど煌びやかに整然に
憧れているまだ最中です
空は繋がっているだとか
海が呼んでいるだとか
そんな伝えに任せて
またふらふらと行き来する
東は暦が違うのか
西は風習が違うとか
もう線香と知らぬ供えが
ちらちら見える町歩き
墓で花火は珍しいとか
知らなんだ
そして慣れぬようで
憶えあるような
夏の気の中を歩いてゆくのです