古い歌を教えてくれた人を
ただのその一事で
愛し続けなければならないのだろうか
なんて呪いだ
やがて
世は思うより緩やかで
息をついていいと知る
温かな人は幾つあっても
上書けるほどの思い
受けることもなく
記憶は残り
皮肉にも
歌の好きな子はそのままに
年老いたという手紙に
責められたような気になって
誰か庇ってくれないかぁ
春の陽だけがある部屋で
ものを憶えていることは
得意事のように言われるけれど
忘れることがよっぽどの
羨ましさだ
はるか
遠くからつながる命に
思いを馳せなければ
私というものが立たぬなら
斃れて死んで結構と
書き残しても見つかるか
記憶は宿り
憎らしく
朗らかと暗黒を同居させる
年老いたらそれで許されると
思う心がこすかよね
誰かわかってくれないかなぁ
春の陽だけがある部屋で
手紙は捨てていいでしょう
どうせ苦しく宿る世を
誰が分かってくれなくても
春の陽だけはある部屋で