おとのは ことのは

詩と曲を書いています。

思い出してもいいかしら

もう忘れてしまった頃に

貴方の手紙を読み返しています

いいの私の心の中だけに

留めおくものだから

 

駅前の路面電車待ち

会えるかしらと探したこと

恥ずかしくなる前に

気づいてもらってよかったな

 

横断歩道の呼び声は

都会と違うと聞いたけど

揺られるまでの少しの間

そっと話せてよかったな

 

港町すすむ穏やかな

100円ちょっとでどこへゆこ

決まらないままに

終点まで

揺られてゆくのもいいかしら

 

西浜のにぎやかに

寄り道おりて何か買おう

そういえば

ここばかり来ていて

ほかを知らない気もするけど

 

思案はつづく

急に人生を思わされるような

錯覚もあって

そっと手をつなぐのも

憚られるからそのままで

 

思い出すだけならいいでしょ

どうせ忘れることだもの

朝の日とあなた

朝日をみた

あなたの横顔を

じっとみた

今の奏

 

愛は罪に溺れても

そこにいるはずよ

離せないのね

 

幾つもの悲しみを生みながら

まだいる理由がわかった

 

朝日まぶしい東向きの

窓際にあなたの命をみた

こうやって並んで座っていたら

小さな私でも同じ目線に

立てるかしら

 

生きていられるかしら

この日がまた帰ってゆくまで

 

愛は罪と知りながら

まだ縋るのよ

離さないように

 

幾つの苦しみに耐えながら

ここにある理由を愛でて

 

朝日まぶしい東側の

空にあなたが目をやった

こうやって追うことがもう

こんな私にも愛なのだろう

 

もう少しここにいられるかしら

宝箱

大切だった宝箱は

たった100円の小さな箱

何かのおまけについていた

そっちを大事にとっていた

 

中には何も入らない

タイムカプセルのように

夢や嘆きを書いた紙

折ってもうまく入らない

 

どこに置いておけば

失くさず見つからず済むかな

書いて満足する日記に似て

もう気もないけど

 

春夏秋冬ゆくのと一緒に

日が沈み月見るのと一緒に

朽ちてゆくのが微か見えた時

ちらと恋しくなるものね

 

思い出すために生きていて

思い描くために先があり

ならば今はどうしましょ

小さな宝箱に

答えはないかしら

巡った花火

日の巡りからは逃れられず

月のリズムも身の内に住む

そうやって生きてゆきましょう

唱えた途端には整わずに

 

また日がな一日

計画と反省で暮れるのね

何為すわけでもなく過ぎたころ

 

日付変わるまで済崩しに

起きていてよかった

ドンと花火が鳴る夜半に

出会えてよかった

暖炉の先に

肩身の狭い思いをさせたね

古い暖炉のまた遠く

蹲る子になったのは

私のせいや

すまんかったね

 

身を縮めることだけが

自分を守るすべなのだと

覚えてしまったのね

どこで違った人生を

 

ここから温めてゆけるかしら

老いゆく身の押しつけになって

また苦しめてしまうかしら

すまんかったね

 

温まったココアを飲んで

ひととき

償いになるかしら

 

身を縮めることだけで

自分を守るようになったね

誰かこの子を愛してと

押しつけがましく思う暮れ

 

暮れる者にはそのほかに

できることが少ないからね

帰りたくないのよ

帰りたくないのよ

冬日は暮れは

あたたかさを

やけに煽るTVが街が

そんな家

どこにでもあるわけじゃないのにね

 

いいじゃない

好きに寝て起きて

食べたいものを食べれば

いいじゃない

寂しくならないと

なんて決まりもないんだし

 

帰りたくないのよ

夕餉のにおいが立ちこめる

あたたかさを

醸す家々の隙間を縫って

あんな家

戻る義理もないからね

 

いいじゃない

誰にいわれても

無理くりに放っておけば

いいじゃない

あたたかさはどこか

別のところにあるかもだし

えにしのはなし

縁は途絶えて

礼参り

ふらつく石段

今のほうが気が浮ついて

 

不安にもなるものね

付き纏うものだと知るのは

これからね

 

もういいの

神様が言ってくれている

ように自分でなぞって

 

縁は途絶えて

礼参り

心は錘を携えたまま

きっと少しずつ軽くなってゆくのでしょう

有難う御座います

大きな背中を追う冬に

大きな背中で進んでゆく

息切らしても追いつけないよ

冬道みぞれまじり

買ってもらったばかりの長靴

 

5時の鐘

西の町でも

暮れる時は暮れるから

手つないで

連れてってはくれない

 

冷たくなってゆくよ

それ以上の言葉を知らないけど

大きな背中は近づいても

遠い

 

溝につまずいて泣いても

待ってくれないから

ぐっと堪えて

そんなくせがつく

 

荒れてきた手

赤い血がにじむ

言ってもいいかな

 

冷たくなってゆくよ

まだまだ言葉を知りたいけど

大きな背中を見失わないように

追う

 

海に呼ばれるとき

海に呼ばれるとき

片足は冷えきって

あなた手繰るとき

片手は抜け落ち

 

もう辿れないよ

そこまで来ても

欲する命に

出会えた命

 

あなたへ溺れるとき

針は動きをやめた

動いているとしても

見えないところまで

 

in summer ,96

泣きじゃくった

おさないままの心だもの

曳かれるもの

清らであれ

 

海に呼ばれるとき

せめて

日よ

日よまだ沈まず

そこで見てくれれば

 

海に呼ばれるとき

どうか

青は空に任せず

水面にもあれ

おもいでばなし

ざらつく肌が嫌いでね

季節のせいでもないのなら

風を見ていたバス停で

待っていてもいいですか

 

校舎の向こうは緑の森

つらく当たった人もあり

ただね謝るだけのこと

どうしてできなかったかね

 

船の汽笛も届くのに

広がる野を描いたり

制服似合わない少女

まるで老婆のような聡い

子だからね

 

冷え切った手は

南の町も

変わらず訪れるものだから

そっと撫でて握ってくれたら

一生忘らりょか

 

晴れた空なら得意の節で

いくらでも歌っておくれ

ただね胸がぎゅっとなる

その時に傍にいられるよう

しんどい時は云ってくれ

 

冬も春さえ嫌いでね

夏の香を待つ秋生まれ

なんやかんやと茹だるうち

適当に付けられた名前

 

ざわつく風が呼ぶほうへ

校舎の隅の小窓から

じっと見ていた走る君

思い描いていいですか