香に当てられるとはこのことで
恋も暦もおなじこと
春気のして
斯くも容易に狂っていくものか
電車は遅れている
それでいい
狭い星をそんなに急いで
何処へもゆけないのだから
めぐる中に大人しくいて
すっと収まることだけが
私たちにできる唯一の
歴とした営みでしょう
雨も来るなら結構
その香嗅ぎつけて籠るだけ
花が散るとはこのことで
恋も揺らぎに似せられる
春気すぎて
斯くも容易く移ろうものか
駅前は混んでいる
並木の向こうにもう見えて
誘うようで離れたくて
どうせ運命なのだから
しゃがみこめば一瞬で
去ることもできる世に噛む
私たちが過ごした日々など
いのち消えれば忘らるる
晴れてくるなら結構
その香に呼ばれて道行くだけ